テナーホーンのマウスピースは何がいいですか?

一般論として、一番よいマウスピースはこれと決めることはできません。それは唇、歯並びや息の流れ方などには個人差があり、どうしても相性問題が避けられないからです。

トランペットやトロンボーンであれば、楽器屋さんに楽器を持ち込んで何種類か試させてもらうことで選ぶこともできますが、テナーホーンの場合はまず取り寄せから始まります。しかしあまりたくさん売れるものではないので、たくさん取り寄せてもらうのもなかなかお願いしにくいものです。実際にはある程度周りの噂を参考にえいや!と決めてしまうことが多いでしょう。

各マウスピース評

ここではブリティッシュスタイルブラスバンドにおいて、よく用いられているデニスウィックのマウスピースについて数種紹介し、購入の際の参考にしていただければと思います。その他のメーカーのマウスピースも入手次第評価していきたいと思います。

Denis Wickマウスピース

表4-1 Denis Wickマウスピース仕様(Boosey&Hawkesの資料に基づく)
Model No.カップ内径(mm)カップ外径(mm)リム幅(mm)ボア内径(mm)バックボア形状
219.0030.635.825.20V型
318.5030.636.075.20V型
517.5030.206.355.20Open-V型

Denis Wickマウスピース2はベッソンのテナーホーン購入時に最初から付いているものです。比較的癖がなく、テナーホーン独特の甘い音色を出しやすいので、いろいろ試して結局このマウスピースに落ち着く人は多いようです。マウスピース内径が大きいため、大きな音量も受け入れる余裕があり、あまり不満を持つことはないでしょう。ただあえて言えば低音域でアパーチャがだらしなく広がってしまう場合もあり、低音は出しやすいが音が定まりにくく苦労する一面も持っています。

Denis Wickマウスピース3の第一印象は2との差は小さくあまり違いがありません。ただ、若干小さくなったカップ内径の影響か低音のだらしない音色は発生しにくく音色のばらつきがありません。ただし逆に音量に対するキャパシティは小さく2に比べ、全体的に抑圧された演奏感があります。

Denis Wickマウスピース5の第一印象は「まるでホルンみたい」というカップ形状と音色です。データ上もホルンの一般的カップ内径と同じであり、テナーホーンとホルンを頻繁に持ち替えないといけない人には役に立つかもしれません。このマウスピースは高音域の演奏のしやすさ、スタミナのもちは抜群です。楽に響く高音域は魅力を感じます。逆に低音域はかなり出しにくく、音色がぱりぱりするため繊細な演奏は難しいという側面もあわせ持っています。演奏で利用するにはかなり条件があわないと使いにくいかもしれません。

YAMAHAのマウスピース

ヤマハからアルトホルン用として「37C4」「38D4」のマウスピースが出ています。両方とも私の楽器(Besson 950-1)で試してみました。YAMAHAの楽器で試奏すると違った印象である可能性が高いと思います。

表4-2 Yamahaマウスピース仕様
Model No.カップ内径(mm)カップ外径(mm)リム幅(mm)ボア内径(mm)バックボア形状
37C418.6030.005.70--
38D418.9030.305.70--

37C4、38D4いずれのマウスピースもサイズ面ではDenisWickの2と3の間のサイズであり、両方の特徴の間を示すものとして期待していたが、実際はそうではありませんでした。演奏感覚からいえば、バテにくいが制御が難しいです。音色は特に可もなく不可もなくという感じなのですが、リップスラーのような唇の感覚が重要な技術が要求される譜面はかなり厳しいと思われます。これはおそらくリムの形状、山の形の差にあるのではないかと思います。息の抵抗感は特に不満なく、ほかの楽器用のYAMAHAとなんら差はないといってまず間違いないと思っています。

B&Sのマウスピース

ちょっとしたご縁がありましてB&Sのマウスピースをお借りして吹く機会ができましたので、評価してみます。お借りしたB&Sのマウスピースには「4/2」という刻印がありますが詳細なスペックは不明です。計測したところではマウスピース内径が19mm、カップ形状はDenisWick 5のようにV型でホルンと同じようなカップです。リム幅は5mm程度、山はなだらかでVincent Bachのマウスピースみたいです。吹いた感触は第一印象は「結構いける!」という感じなのですが、音色の特徴がなく面白みに欠け、しばらく吹いていると音が濁って来るような感じがします。これは19mmというやや大きめのサイズに順応した結果、サイズどおりやや大味なものになってしまっているのかもしれません。決定的に悪いというほどのものでもないのですが、よいというほどのものでもなく、きわめて特徴のないマウスピースでした。

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