もう1人の私


6月29日に私は生まれた。生まれてからこれまでずっと大事にされてきた。

私の親は誰なのか分からない、というよりは親とすべき人物が誰なのかが分からない。しかし、私は生まれてからずっと大事にされてきた。

私の回りには同じような境遇の人がたくさんいる。一つの広い空間に数え切れないくらい多くの同じような境遇の人がいる。みんな、本当の親が分からない。

この空間にいる者は誰一人としてこの空間の外を見た者はいない。この空間の外に世界があるらしい事は分かっている。時々、呼び出されてこの空間から連れ出されていく。初めて外を見る事ができるという好奇心から連れ出される人は喜んで出ていくのだが、誰一人としてここへは帰って来ない。どうやら外は相当の楽園らしく、ここへ帰りたくなくなるのか、忘れ去る事ができるようだ。

ここで私のことをお話ししよう。私の名前は小村宏司。17歳の男である。繰り返すように私の親は誰なのか分からないのだが、生まれてからずっとここで大事にされてきた。私もここに住む人たちはみんなどうやらやら裸と呼ばれる状態らしい。時々呼びに来る人がそういうのだ。ここのみんなからすれば呼びに来る人こそ体に何か白い物体を身につけていて、変な格好である。

ここでの一日は非常に退屈であるが生活には困らない。たとえなにもしなくても食事は必ず与えられる。なにもしないで食べているだけだと太るので、みんな運動を積極的に行う。運動をするためのものであれば何でも与えられるのだが、それ以外は基本的に与えてくれない。

私には大好きな女がいる。向こうも私のことが好きなのだ。だから一緒にいる。名前ははるかという16歳の女である。とても可愛くて、一緒にいると何もかもが幸せだと感じられる。

しかし、つい25日ほど前、はるかには外からお呼びがかかった。お互い別れるのがつらかったが、ここでは外に連れだされる子とは大変栄誉なことであり、外の世界での再会を約束して祝福しながら送り出した。

別れてしばらく脱力感で一杯だったが、昨日、私にもついにお呼びがかかった。ついに外の世界を知る事ができるという楽しみと、はるかと再会できるという喜びに満ちあふれここを出た。

連れ出された私はある人物に会った。名前は小村宏司という65歳の男性で、白い台の上に横たわっていた。私を連れ出した人物は彼は私の親であり、また彼は私であるといった。よく分からないが、この人が親なのかとじろじろ見ていたが、彼はあまり元気がなく、顔色も悪かった。今日、これからこの人物と一緒の部屋に集まる事になっている。

約束の場所についた途端、私は捕えられ、ギラギラと光る鋭い板で私の体を切り開いていく。猛烈にいたい。このままでは私は死んでしまうのではないか、そう思った瞬間、私を切り開く人物は言った。

「君は彼のクローンなんだ。彼の命が長らえるために君の心臓をいただく。自分を救うためだからあきらめろ。」

私はその言葉を最後まで聞く事はできなかった。

この話は作り話ですが、あなたの話だったらとしたらどう思いますか?


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